金属格子内核融合

金属格子内核融合炉(Metal lattice fusion Reactor)

本サイトでは金属格子内核融合炉(Metal Lattice Fusion Reactor)研究について詳しく解説しています。
金属格子内核融合の理論、反応仮説、常温核融合との関係、将来性について紹介します。

1.常温核融合研究への参入理由
2.ポンズらの電解実験で重要なのは「死後の熱」
3.「死後の熱」の発生条件
4.金属内は核反応の特殊環境
5.長距離核力の存在
6.連星核の物理学
7.金属内核融合連鎖反応
8.弊社実験炉報告
9.将来展望と技術課題

1.常温核融合研究への参入理由—-自ら真偽を明らかにするため

2010年にいわゆる常温核融合と呼ばれた、FleischmannとPonsによる電解実験(以下ポンズらの実験)で起こった異常発熱の研究は、本流の研究者からは異端扱いされていながら、研究を継続している研究者達が活動を続けています。日本ではJCFという学会が存在しています。そこで講演を聴くことで現実性のあるものか否かが明確になるのでないかと考え参加したが、各研究者は各自バラバラの研究を行っており、一貫性のある話は聞けませんでした。そこで自ら白黒をつけるべく本研究に参入しました。当時、この常温核融合というものは、Pdに高密度の重水素を吸蔵させることにより、DD核融合が生じ発熱が起きると言われ、ナノパウダー(10nm = 10-8m程度のPd粒子)に多くの重水素を入れる実験が主流でした。ところが研究を続けているうちに、電極というバルク(塊)で起きた現象をナノパウダーで再現しようというのは無理があること、そしてポンズらが感じた「Pdに高密度の重水素を吸蔵させるすべき」とする印象が間違っていたのではないかと感じるようになりました。実験者たちはポンズらの実験をもっと良く研究すべきです。


2.ポンズらの電解実験で重要なのは「死後の熱」

● ポンズらの実験の論文の概要(1989–1994年)と評価

ポンズらは、1989年、リチウム(Li)を溶解した重水(D₂O)電解液を用いた電解実験で、パラジウム(Pd)陰極に異常発熱が観測されることを報告しましたが、放電を起こしたとか、爆発を起こし電解容器が壊れたとか、Pd電極が溶けたとかの記載があるだけで実験の詳細は公表されませんでした[1]。その後1994年の「Heat After Death(死後の熱)」の論文で、電解による電解液減少により定電流回路の電解電圧が高まり、更に電解液喪失により電解電力の供給が無くなった後、温度が100℃に維持されることが特に重要な現象として報告されました[2]。この論文で参照している1992年の論文には、彼らの実験状況が詳細に書かれています[3]。

図1:The temperature-time curve for a cell being driven to boiling showing also the initial part of the cooling curve – 2 mm length Pd cathode polarized in 0.1M LiOD in D2O; final cell current: 500 mA [1]

図2:Temperature-time and potential-time profiles for four 12.5 × 2mm palladium electrodes polarised in heavy water (0.1M LiOD). The input enthalpies and the excess enthalpy outputs at selected times are indicated on the diagrams. The initial current was 0.200A, which was increased to 0.500A at the beginning of days 3 [2]

図3:Schematic diagram of the single compartment vacuum Dewar open calorimeter cells used in this work [3]

つまり、Pdの電解実験による常温核融合と呼ばれた発熱は、電解終了後に発生するもので、ポンズらはこの発熱こそが重要として「Heat After Death(死後の熱)」と命名したのです。

● FleischmannとPonsのミスリード: 高密度のDを吸蔵させるべきなのか?

彼らは、上記各論文全てにおいて、「Pdに高密度でDを吸蔵させるべき」とのコメントを入れています。ところが、1992年の論文から実験の様子を読み解くと、大気解放のガラスの二重構造の電解槽にヒーターを入れ電解液を温め、電解液減少により定電流回路の電解電圧が高まり、その電解電力により更に電解液温度が上昇し、電解液が蒸発して喪失しています。このときの電解槽内の温度は100℃になっています。リチウム(Li)は重水(D₂O)に触れると水酸化リチウム(LiOD)になり重水に溶解し、アルカリ性の電解液になります。ポンズらの電解装置の図を見ると、Pd陰極は下の方に配置されており、Pd陰極が電解液から完全に外に出た状態になったときには、かなり電解液が濃縮され、飽和溶液になっていたと思われます。

もとからアルカリ電解液には、Li+イオンとODイオンが主体で、D+イオンは少ない状態です。その状態から、電解液が100℃になったら、更にDは吸蔵しにくくなります。少なくとも重水素濃度の高いα’相ではなく、重水素濃度の薄いα相であったと考えられます。図4は我々が(株)計算熱力学研究所のソフト[4]を使い作成した水素圧が0.02気圧のときのPdの状態図で、横軸が原子数比です。電解で重水素ガスが発生してもその分酸素ガスも発生し、電解装置は大気解放です。死後の熱が発生したときは、電解が終了した後です。恐らくそのときの重水素圧は0.02気圧にも達していないと思われます。この状態図を見ると分かるように、水素濃度の高いα’相は40℃以下でしか発生しません。

図4:State diagram of palladium and hydrogen with temperature on vertical axis calculated with CaTCalc [4]

つまりポンズらの思い込みとは異なり、彼らのPdには大してDは吸蔵されていなかったのです。1989年の発表から、ポンズらの電解実験の追試ブームが来ますが、全員が「Pdに高密度でDを吸蔵させるべき」とのコメントを信じて行動をしたので、再現できなかったのです。アメリカのエネルギー省は早々に否定的見解を発表します。このころ電解液を喪失させる迄電解を続け、電量が流れなくなれば研究者は実験失敗と考えたと思います。そのため誰も再現が出来なかったのです。やがて、ポンズらも資金が枯渇して、大学を後にしたので1991年には研究が継続できなくなります。

しかもポンズらは電解液が喪失するまで電解を5つの電解装置を同時に使って、「死後の熱」を確認したのはそのうちの1つだけです[2]。「死後の熱」の論文が発表されたのは1994年で、このころには研究を継続していた研究者はそれぞれ興味を持った手法に走り、電解実験の追試ブームは去っていました。そのため、あとを託すために書き残したと思われる1992年のポンズらの論文もあまり顧みられなかったようです。

●パラジウムに対する誤解

ポンズらの電解実験の追試を行った研究者は、核物理学系の研究者が中心でした。そのため私が参入したころでもパラジウムという金属の性質について多くの誤解が一般論の様に語られていました。

その一つが自分のサンプルでは原子数比で1以上に重水素を導入できたという主張です。しかし、パラジウムという金属の性質から、吸蔵できる重水素量は温度と圧力によって決まり、どんなに圧力を掛けてもけっして原子数比が1になるまで重水素が吸蔵することは有りません。微粉末などに多く入ったように見えたとしたら、表面の酸化物ができていてそれが還元しているか、表面に付着して多く吸蔵されたように見えているだけです。

また、「1mm厚のPdの板が手で曲がるはずがない。」と主張した方もいましたが、焼鈍した純Pdは柔らかく簡単に曲がります。だからこそ、圧力を多少高めるだけでPdの一部がα相からα’相に相変態することで、少しずつ重水素が固溶していくのです。

重水素濃度の薄いα相と濃いα’相の中間層というものは有りません。重水素が25%の原子数比のPdは重水素濃度の薄いα相と濃いα’相が全体として25%の原子数比になるように混合して存在しているのです。そして、α相はα’相になるとき3%ほど格子が広がり、体積でいうと10%近く膨張します。Pdに少しずつ重水素を含有させると、少しずつα相からα’相に相変態することになるので、全体が加工硬化を起こします。時々、事前に重水素を吸蔵させ、放出させておけば、実験の際の吸蔵、放出が容易になるような記述がありますが、まるで逆で、加工硬化を起こし、相変態を起こしにくくなり、吸蔵、放出ができにくくなります。

我々は金属格子内核融合炉に用いる金属は、結晶構造に乱れが少ない金属である必要があると考えています。純Pdに大量の重水素を含有させようとするとα’相に相変態し、その過程で加工硬化され、結晶が乱れてしまいます。あまり核物理学者は金属の状態に興味がないので、加工後焼鈍していない試料や、一度重水素を吸蔵放出させた試料は、結晶が乱れているので反応が起きないことも死後の熱の再現が難しい一因ではないかと考えています。


3.「死後の熱」の発生条件

死後の熱の再現例

電解停止後の異常発熱、いわゆる「死後の熱」、もしくは似た事例がないか探すと、北海道大学水野氏の著作「常温核融合 研究者たちの苦闘と成果」で、電解停止後に12日間にわたり異常発熱が観察された事例が記載されています[5]。ただし、技術書ではなく、査読者無しの自叙伝の形式で1990年の実験を2005年に著作にしたもので細部の信頼性は低いものです。電解液の消失の記載はありませんが、同様に100℃を少し超える密封電解容器で、何らかの理由で電解電流が途切れ、一旦温度が90℃に下がってから異常発熱が起こり、温度が100℃近くに戻ったところで記録が途切れています。想像すると電解液が喪失し、電流が流れなくなり、しばらくして計測装置から外し、自室に持ち帰ったら容器の温度が下がらず、記録を確認すると温度上昇が記録されていたという感じです。その後、水を入れたバケツで冷却しても、12日間温度を保っていたという記載があり、水の蒸発量から推論して1.14×108 ジュールの発熱があったことになる、と書かれています。 

電極内リチウムの同位体比異常の資料発掘

別の例は、東京工業大学岡本氏の研究での重水素電解後のPd電極表面を二次イオン質量分析(SIMS)で解析した2次イオン量の図があります[6]。少量の重水素が吸蔵されているだけのPdが発熱を起こすとは考えられません。長時間の電解が必要な理由は、Pd電極に電解液のLiが入り込むのではないかと思い、情報をさがしていて見つけた図です。他の電極と比較して重水素量と合わせて軽水素量も異常に少ないこととから、高温に晒された履歴があると考えられるので、論文には書かれていませんが「死後の熱」を経験した電極だと考えられるものです。表面付近は天然存在の6Li/7Li比であるのに、20000Åから50000Åの深さにかけて6Li/7Li比の変化が確認され、6Li核の生成が示唆されています。この図の6Liは「死後の熱」の核反応による生成物だと確信しました。

ところが、6Liの生成は恒星内の環境ならともかく、地上では通常の核反応では生成されない元素なので、このデータの存在は研究者の間で無視されてきました。しかし、我々は計測者自身と面談し、信頼できるものであるという確信を持ちました。

図5:重水素電解後Pd電極表面の2次イオン量のSIMSプロファイル [6]

● 長時間の電解はリチウムをパラジウムに入れるため

ポンズらの「死後の熱」が生じた電極は472時間の電解を行っています。水野氏の電極は3週間の電解を4回行っており、トータル2000時間の電解を行っています。岡本氏の図5の電極も520時間の電解を行っています。このように長時間の電解が必要なのは、多量の重水素を吸蔵させるためではなく、リチウムをパラジウムの金属内に入れる為だと考えました。

リチウムはPdの結晶格子間に入っていなければならない

我々は、Pdに6Liイオンを照射したサンプルを作成し、なるべく岡本氏の測定条件に近づけてSIMS:計測を行い、図5の50000Åの付近のLiの原子比率を推定しました。

ところが、粉末冶金でPdとLiをこの比率で混合して焼結したのでは、核反応は起動しませんでした。熱拡散により固溶させたのでは、Liは置換原子としてPd結晶格子の一部が置き換わるだけです。イオン照射や電解でPd結晶の格子間原子として入っていなければならないのです。


■4.金属内は核反応の特殊環境

理論解説 — 金属格子内で起こる金属格子内核融合の連鎖の仕組み

クーロン遮蔽効果

原子核同士は正の電荷を帯びており、通常は強く反発しあいます(クーロン斥力)。しかし金属中では、周囲に存在する自由電子がこの斥力を部分的に打ち消し、核同士の反発が少なくなります。このことにより核反応が起きやすくなる現象が「遮蔽効果」です。

チャネリング効果

金属結晶内では、原子が規則的に並んだ格子構造を持っています。この構造の隙間(チャネル)はイオンや荷電粒子が直線的に通過する経路になり、イオンはここに入り込むとチャネルの中を進むようになります。このチャネルの中心に格子間原子が存在すれば、ランダムな方位に広がる核反応で発生したイオンがこのチャネルは入り込めば、格子間原子に衝突する確率は飛躍的に高まります。その結果、金属中では真空中を自由に飛び回るイオンに比べ、飛躍的に核反応の機会が増加します。

図6:金属結晶内のチャネリング現象

阻止能

従来の原子炉や熱核融合炉は、核エネルギーのほとんどを中性子の運動エネルギーに変換し、その中性子を減速することで熱に変換します。そのため原子炉の専門家の方ほど、核エネルギーのほとんどをイオンの運動エネルギーに変える金属格子内核融合炉で、どのように熱に変えるのか疑問を持たれる方がいらっしゃる。しかし、イオンが物質に入れば運動エネルギーは物質の阻止能により簡単にエネルギーに変換できるのです。α線が紙一枚で止めることができるのはそのためです。金属は電子と原子核が並んでいるので、チャネルを構成すると同時に、電子的阻止能と核的阻止能によりイオンから運動エネルギーを奪い熱に変える発熱体として機能するのです。

金属への重陽子線照射による高エネルギー粒子の放出

通常のD-D核融合では下記の反応を起こします。

(a)  D + 2H → 3H(1.0MeV) + p(3.0MeV) :50%

(b)  D + 2H → 3He(0.8MeV) + n(2.5MeV)    :50%

(c)  D + 2H → 4He + γ(23.8MeV)        :0.00001%

ところがAuコーティングされたTiDx(重水素を固溶されたTi)に重陽子線を照射すると、6.5 MeV のα線や17MeVのp線が放出されます[7]。別の実験では4.75MeVのHeと4.75MeVの3Hが放出されます[8,9]。同様の現象がTiDxに対してSi3+ビームを打ち込んだ場合にも発生することが確認されています[10]。

これらの粒子の生成は、3つのD核が同時に反応したと考えなければ発生しえません。

(f)  D + D + D → 52He(3.5MeV) + p(17.4MeV)

 52He → α(0.18MeV) + n(0.73MeV)

(g)  D + D + D → α(7.9MeV) + D(15.8MeV)

(h)  D + D + D → 32He(4.7MeV) + T(4.7MeV)

ところがDD核融合反応は瞬時に完了するので、DD核融合反応の途中でもう一つのD核が衝突する可能性は0と言い切れるものです。ところが、この現象に対して理論解明はされていません。現代核物理学では説明できない現象として放置されているのです。


■5.長距離核力の存在

湯川の核力ポテンシャルだけでは説明できない現象

1935年に湯川秀樹によって提唱された中間子交換理論[11]は、核子間相互作用の基礎理論として1世紀弱にわたって核物理学の発展を支えてきました。湯川型ポテンシャルは、短距離での核子間結合は良く説明する為、近年ではそのまま短距離(r < 2.5fm(フェムトメーター: 10-15 m))に着目した量子色力学(QCD)との接続が行われてきました[12,13]。

核力としてはこの短距離核力のみが存在するものとして扱われ、様々な実験結果が短距離核力のみで説明されてきました。例えば中性子の核との反応断面積の1/v則は、核力ポテンシャルの形に関わらず中性子の速度はエネルギーの平方根に比例するので、遅い中性子は標的核付近に存在する時間が長いので核反応しやすいという概念的な説明のみが核物理の教本には掲載されています。ところが、この説明は査読論文に掲載された内容ではなく、教本の著者による通説にすぎないのです。

日本原子力研究開発機構が提供するJENDL(Japanese Evaluated Nuclear Data Library)データベース[14]には、従来から知られている反応断面積の1/v則や弾性散乱断面積の一定性が10-5 ~104 eVの極めて広い範囲で詳細に表されています。短距離核力の及ぶ範囲が2.5fm(フェムトメートル = 10-15m)とすると、たとえば3He核の核力の及ばない範囲を通過する中性子が核力の及ぶ範囲である2.5fmの10000倍以上の距離から3He核に引き寄せられ、核反応を起こすことになります。この事実は核物理の教本に掲載されている説明は矛盾していることを証明しています。この矛盾は、教本の説明の結論が実験値と合っているということだけで、50年以上も疑問を挟まれないまま放置されてきました。

図7:JENDL-5データベースより引用 3Heに対する中性子断面積図(実線は核反応断面積)[14]

長距離核力の存在

我々はこのJENDLの計測値を説明するために、以前からN/r5の長距離核力の存在を提案しています。核力ポテンシャルは核力の積分の-NA/r⁴で表されます。2019年出版の弊社書籍「常温核融合炉」では古典物理による計算証明のみでしたが、2026年3月14~15日のJCF25では量子力学的に波動関数で直接計算した結果を報告します。量子力学的に検証した結果、このN/r5核力で、中性子の核に対する反射断面積がエネルギーによらず一定になることも検証することができました。

しかし、弊社の計算資源の関係から、スーパーコンピューターによる波動関数の計算は2次元で行わざるを得ませんでした。しかし、弊社のみで本格的なスーパーコンピューターを使い3次元で計算し論文化しても、長年の通説を覆す論文の査読を通すことには困難が予想されます。大学もしくは公的研究所の研究者の方で、共著者になっていただける方いらっしゃれば、もっとインパクトファクターの大きい雑誌に投稿したいので連絡をいただきたいと思います。


■6.連星核の物理学

量子化条件を満たした連星核が存在し得る

我々の提案する長距離核力の存在を前提とすれば、水素原子の電子のように、角運動量: L=nℏ,n=1, 2, 3, … の量子化条件を満たす安定状態のDD連星核(DD binary)が存在できることが分かりました。この件についても、2026年3月14~15日のJCF25で報告します。

これまで連星核の存在が知られなかったのは、D核の場合は質量が大きいためです。水素原子の電子は、光を発して量子化条件を満たす安定状態に移行できます。ところが、D核の場合は光の一種であるγ線を発しエネルギーを放出したとしても、質量がないので運動量の放出は不可能です。そのため真空中ではDD連星核のような安定状態に移行することはできため、観測できないからです。しかし、金属内では周りに電子や原子核が存在するため、核力に捕らわれたイオンはフォノンの放出により、エネルギーと同時に運動量を放出することができ、連星核状態に落ち着くことができるのです。

図8:金属結晶内で静止した連星核のイメージ図

連星核を経由する、穏やかな核融合連鎖反応

我々は「死後の熱」のメカニズムとして、金属内で核反応イオンがチャネルを通り、格子間原子に衝突し、核反応が連鎖する核融合連鎖反応を提案している。しかし、「核融合連鎖反応が成立するとしたら、核反応は瞬時に完了するので、爆発的に反応が拡大するはず。」という指摘があります。この指摘に対する回答が連星核なのです。連星核はDD核融合の途中のDD連星核だけでなく、D核が6Li核や7Li核に衝突した場合にもD-6Li連星核やD-7Li連星核が生成されます。そのため金属内では核融合連鎖反応が穏やかに進むのです。

DDD3連星核(DDD trimer)の存在推定

これらの連星核の中でDD連星核は形成する2つのD核は質量が等しいので、等しいエネルギー状態で存在していることになります。これが仮にフェルミ粒子同士であれば、パウリの排他原理(Pauli exclusion principle)に反することになりますが、D核は中性子一つと陽子一つからなるボゾン(ボーズ粒子)であり、当該排他原理には縛られず、DD連星核は成立するのです。

そしてD核がボゾンであれば、3つ目のD核も同じエネルギー状態を取ることができます。このことは、金属中では更にDDD3連星核が生成し得ることを示唆しています。

6Liの生成メカニズム

DDD3連星核が存在すれば、ここに次のD核等が衝突したときに以下の(i)~(l)の反応が起きると考えます。

(i)  D +DDD trimer→ 6Li(6.3MeV) + D(19.0MeV)

(j)  D + DDD trimer → 2α(23.8MeV)

(k)  D + DDD trimer → 7Li(3.8MeV) + p(26.5MeV)

(i)の反重水素電解後のPd電極表面を応で6Liが再生成されるのです。

つまり、長距離核力が存在すれば、金属中では6Liが再生成される核融合連鎖反応が成立するのです。


■7.金属内核融合連鎖反応

起動反応

長年、常温核融合研究では、どれも決め手に欠け、統一的な理論はありませんが、様々な常温でDD核融合が生じ、直接4Heが生成される特殊な理論が提案されてきました。これは、現在考えられている熱核融合が、何百万度というエネルギーのイオンを磁束で拘束するタイプであることから、これまでの理論では核融合は高温でしか生じないとのイメージが強いからだと思われます。

しかし、JENDLデータベース[14]を調べれば気付くことですが、常温で核融合を起こす反応は昔から知られているのです。図9は6Liに対する中性子反応断面積図です。6Liは質量数6のリチウムで、自然界のLiに含まれているので、ポンズらの電解実験系に含まれている同位体です。実線は(n, t)反応断面積で、中性子を吸収しトリチウムを放出する次のC)の核反応のことです。明確な1/v挙動を示し、常温付近の0.0253eVのエネルギーの熱中性子に対して940b(バーン: 10-28㎡)もの巨大な核反応断面積を持ちます。これは原子炉で燃料として使われる235U(ウラン235)の14倍の面積になります。

図9:JENDL-5データベースより引用 6Liに対する中性子断面積図(実線は核反応断面積)[14]

C) n + 6Li → T (2.2MeV) + α (1.6MeV)

熱中性子は自然界にも少ない数で存在しています。ポンズらは4つの電解実験を並列に行いましたが、「死後の熱」が発生したのはそのうちの1つです。2×12.5 (論文にこう書かれているのです。) の小さいPd電極の表面にリチウムが十分入り込んだとしても、電解時では重水素濃度が高すぎます。電解が終わり、温度は高いままでPd内の重水素がかなり排出され、適度な重水素濃度になり、連鎖反応の条件が整ったタイミングでPd電極に入り込んだ6Liに偶然熱中性子が衝突しなければ起動しないのです。確率はかなり低いと思われます。これも、再現実験が成功しなかった原因の一つだと思われます。

連鎖反応

この反応で生成された、T (2.2MeV)とα (1.6MeV)イオンが、金属のチャネルに入り、格子間原子のD核と衝突し、運動エネルギーがD核に分配され、Dイオンが生成されます。

B) X +  D → X + Dイオン

このDイオンが金属のチャネルに入り、格子間原子のLi核と衝突すれば、以下の反応が生じます。

  • D + 7Li→ 5He (6.3MeV) + α(7.9MeV)
  • 5He崩壊 → α(0.2MeV) + n(0.7MeV)
  • D + 6Li → p (4.4MeV)+ 7Li (0.6MeV)
  • D + 6Li → n (3.0MeV) + 7Be(0.4MeV)
  • D + 6Li → 2α(11.2MeV×2)

そして生成されたイオンがPd金属格子内のチャネルで拘束され飛び回ることで、上記反応と、DD核融合の(a)から(c)の反応、DD連星核とD核との(f)から(h)の反応、そしてDDD3連星核との(i)から(k)の反応が起き、生成されたイオンがB)式のXイオンとなって新たなDイオンを生成することで、核融合連鎖反応が成立します。そして金属の持つ阻止能によりイオンの運動エネルギーが熱に変換されます。「死後の熱」の正体はこれらの様々な核反応が連鎖する核融合連鎖反応なのです。決して特殊な核反応理論によるD核2つが直接4He生成される反応ではないのです。


■8.弊社実験炉報告

弊社の「金属格子内核融合炉実験炉」の結果については、弊社の2019年発行図書「常温核融合炉(金属結晶閉じ込め型核融合炉) 」とJCF20のK. Ooyama, ”Start-up of Metal Crystal Confinement Fusion Reactor”で詳しく書いています。ただし、起きた現象に対する解釈については、サンプルが焼鈍時に軽水素ガスの混合した雰囲気に置かれていた事実と、上記したように「金属内核融合連鎖反応」理論が進化したことから変化しています。次に出版する予定の書籍「金属格子内核融合炉」には、この点を含めて全てを掲載する予定です。

金属格子内核融合炉実験炉

サンプルはPdの円盤を焼鈍し、結晶粒を粗大化させ、そこに6Liイオンをドープしたものです。このサンプルが金属内核融合炉実験炉の発熱体に相当します。ずいぶん経ってから分かった事実ですが、この焼鈍の時にPdの光沢を保持するために雰囲気ガスに軽水素が2%含まれていました。ここに熱中性子が入れば起動するのですが、偶然を待つわけにはいかないので、そのサンプルの上にα線源を置くことにしました。α核がD核と衝突し散乱すれば、Dイオンが生成されるからです。この状態で、75℃でベーキングを行いました。

図10:金属結晶格子内核融合炉の基本構成

図11:Pdサンプルとα線源

金属内軽水素核融合実験炉の起動

当該ベーキングの最中に、最長1.5時間のγ線連続放出がありました。このとき、サンプルには軽水素が含まれています。このγ線放出のメカニズムは以下のようなものだと考えています。

まずα線源から放出されるα線が、B)の反応のXになり、格子間原子のH核に衝突し、運動エネルギーが分配されたpイオンが生成されます。

B’) X + H → X + pイオン

このpイオンがサンプル金属結晶格子のチャネルに入り、格子間原子の6Li核と衝突すれば、以下の核反応が生じます。

  • p + 6Li → 3He(2.3MeV) + α(1.7MeV)

核反応が生じれば、中性子の反応断面積の図と同様に一定割合で核融合も生じます。つまり次のK)の反応でγ線が発生するのです。

  • p + 6Li → 7Be + γ (5.6MeV)

この5.6MeVのγ線が放出されたと考えています。

γ線の数を1.78×106回/hと推定し、その2.72×104倍の数の4.84×1010 回/hでのH)反応が起きていたと考えても0.0086W程度の発熱しか発生しなかったはずです。核反応の数が少なかったため発熱は感知できなかったと考えています。このような数の反応が長時間にわたり連続するということは、金属内核融合は連星核状態を経由して穏やかに進む連鎖反応であることを示しています。

この金属内軽水素核融合実験炉からのγ線の放出は1時間半の間続いたので、現在のどの熱核融合炉に比べても長時間の起動に成功したことになります。

是非、機会があればγ線のエネルギーを計測し、核反応を特定したいと考えています。協力していただける研究機関の方の共同研究提案をお待ちします。

金属内重水素核融合実験炉の起動

この後、ベーキングを続け、その後、断続的に重水素ガスを供給しました。トータルフローで0.368ccを供給した後、徐々にγ線が放出し始め、続いて爆発的な中性子の発生がりました。重水素ガスの全てがPdサンプルに固溶したとするとD/Pd原子比が0.0065mol%になる量です。核反応数が少なすぎたため、発熱は確認できていません。この中性子爆発は、1回だけではなく、この後も重水素のベーキングと供給を繰り返す間に何度も発生しています。

図12:中性子バースト時の記録

この中性子発生のメカニズムですが、まずα線源から放出されるα線がB)の反応のXになり、格子間原子のD核に衝突し、運動エネルギーが分配されたDイオンが生成されます。

B) X + D → X + Dイオン

このDイオンがPd金属のチャネルに入り、格子間原子の6Li核と衝突すれば、以下の核反応が生じます。

  1. D + 6Li → p (4.4MeV)+ 7Li (0.6MeV)
  2. D + 6Li → n (3.0MeV) + 7Be(0.4MeV)
  3. D + 6Li → 2α(11.2MeV×2)

これらの核反応が生じれば、生成されたイオンがD核に衝突し、大量のDイオンを生成し、核融合連鎖反応が起動します。これらの核反応が起きれば、DイオンがD核に衝突し、DD核反応も増え、核融合でγ線を放出し4He が生成される(c)の核融合反応も増えます。これらの核融合連鎖反応に平行してDD連星核が形成され、更にDDD3連星核が形成され、蓄積されていきます。そしてDDD3連星核が蓄積されて密度が高まると、DDD3連星核にDイオンが衝突する下記の反応が増えることになります。

(i)  D + DDD trimer → 6Li(6.3MeV) + D(19.0MeV)

(j)  D + DDD trimer → 2α(23.8MeV×2)

(k)  D + DDD trimer → 7Li(3.8MeV) + p(26.5MeV)

これらの反応はどれも20MeVクラスの高いエネルギーを持つイオンを生成します。高いエネルギーを持つイオンは、1つのイオンでより多くのD核に衝突し、多くのDイオンを生成します。そのためDDD3連星核が蓄積されてくると、核融合連鎖反応におけるDDD3連星核の反応割合が増え、飛び交うDイオンが増え、核融合連鎖反応全体が爆発的に活発になる時が発生します。そして、この爆発的な核融合連鎖反応でDDD3連星核が一気に反応し、DDD3連星核の数が減ると、再び核融合連鎖反応は穏やかになり、DDD3連星核が蓄積されはじめるのです。

この爆発的な核融合連鎖反応に伴い、中性子が爆発的に発生するのです。DイオンがD核に衝突すれば(b)のDD核反応により中性子が発生し、生成されたDD連星核にDイオンが衝突すれば(f)の反応の5He 崩壊で中性子が発生します。もう一つは、.軽水素核融合実験炉の起動でK)の反応で生成された7Beが半減期53日(1272時間)で電子捕獲により7Liに変わります。この7Li核にDイオンが衝突すればD)の反応で5He とα核になり、この5He核の崩壊で中性子が発生します。また、DD核反応などで生成されたTにDイオンが衝突すればL)の反応で中性子が発生します。反応をまとめると以下のようになります。

(b)  d + 2H → 3He(0.8MeV) + n(2.5MeV)

(f)  D + DD binary → 5He(3.5MeV) + p(17.4MeV)
 5He 崩壊 → α(0.18MeV) + n(0.73MeV)

D)    d + 7Li → 5He + α  (計14.3MeV)
 5He → α + n  (計0.9MeV)

L)    d + T → 4He(3.5MeV) + n(14.0MeV)

是非、機会があればγ線や中性子のエネルギーを計測し、中性子の生成反応を特定したいと考えています。協力していただける研究機関の方の共同研究提案をお待ちします。

これまで放射線が確認されなかった理由

つまり「死後の熱」が発生した場合、中性子やγ線の放射線が伴うはずです。ところが、これまで常温核融合実験で多量の放射線が確認されたことはなく、常温核融合の発熱は放射線が伴わないのだとする認識が存在します。しかし、それは、その実験で計測された発熱が核反応によるものではないという証拠を示しているに過ぎません。常温でDD核融合が生じ、直接4Heが生成される放射線が発生しない特殊な理論が提案されてきましたが、そのようなものは成立しないのです。

1989年のS. Pons and M. Fleischmannの論文には中性子の発生を報告した部分がありますが、電解中「バックグラウンドの3倍程度」と書かれていて自然界の中性子の変動の範囲内です。その後の彼らの論文には放射線について書かれていません。岡村らの論文でも中性子計測の記述があるが、電解中の計測で「発生は少量である。」と書かれているので、有為な中性子の発生ではないと思われます。両者とも中性子の計測は電解中に行っているので、電解終了後は実験者は実験が終了していると認識しているので、中性子の計測を行っている人は居ないと思われます。

水野氏の書籍の電解実験の記述では発熱が確認された後に中性子の放出がないことを確認して、電解セルを計測器から外し移動したと書いてあります。しかし、データを見ると、電解セルを計測器から取り外した時点で、密封した電解セル内には5.5気圧程度の残圧があり、その分の酸素の圧力分の重水素がPd電極に固溶していたことになります。つまり、その時点ではPd電極には過剰な重水素が固溶していて、「死後の熱」が発生する条件は満たしていなかったので、「死後の熱」ではなかったのです。その後、放置している間に条件を満たし、6Li核に熱中性子が衝突し、1.14×108 ジュールの「死後の熱」が発生したのではないかと考えています。 

2つの金属格子内核融合炉

弊社の実験炉の重要な成果は、「金属格子内軽水素核融合炉」と「金属格子内重水素核融合炉」の2種の核融合炉が成立し得ることが分かったことです。


■9.将来展望と技術課題

金属格子内軽水素核融合炉

「金属内軽水素核融合炉」はリチウムと軽水素を燃料として、熱中性子で起動し、ヘリウムが生成され、反応は穏やかに連続します。放射線としてγ線は発生するが中性子は発生しないので、鋼鉄製の炉体だけで防護できるのでこれまでの原子炉より人に近い所で運転ができます。そのため、発電用だけでなく、船舶の動力源としても利用でき、港湾内でも稼働できるので原子炉と別に動力源を持つ必要がない実用的な原子力船が建造できる可能性があります。燃料の同位体分離が必要なく、燃料は安価で済みます。ただし、Liの再生産はできないので、リチウムが消費されたら発熱体の金属格子間にリチウムを再充填する必要があります。そのためいかに大量のリチウムを格子間に入れ込み、長時間安定運転を行うか等の課題が予想されます。

燃料のリチウムと軽水素は放射性物質ではありません。廃棄物には放射性物質として7Beが残りますが、7Beは半減期53日(1272時間)で電子捕獲により7Liに変わります。比較的短時間の半減期を持つので、運転期間中にも減少し、保管期間は短くてすみます。従って、廃炉は容易なものになると思います。

金属格子内重水素核融合炉

「金属格子内重水素核融合炉」は重水素を燃料としてヘリウムが生成されます。6Liは再生産されますが、熱中性子で起動する為にはリチウムを金属格子間として入れておく必要があります。放射線としてγ線と合わせて中性子が脈動するように発生します。Liの同位体分離は行わなくても良いですが、重水素は同位体分離が必要で高価になものです。6Liが再生産されるので、長時間の連続運転も可能だと思われます。ただし、大型化すれば平準化する可能性もあるが、反応に変動が残れば熱出力が変動する可能性があります。

廃棄物には放射性物質としてTが残るが、Tは半減期約12.3年でβ線(ベータ線)を放出して3Heに変わります。自然界にも存在するので希釈することで外部に放出することが許可されていまする。従って、中性子により放射性物質に変わる元素を使わなければ、廃炉は容易なものになると思われます。

起動条件の最適化

実験炉はベーキング中や重水素の充填中に起動しており、水素濃度や重水素濃度とも、かなり薄い状態で起動することは確かですが、最適濃度は詰めることができていません。6Li濃度もドープ量からかなり薄い部分で起動することは確かだが、6Liイオン照射時にドープ深さが理論通りになっているか不明で、どの深さの部分で起動したかわからないので最適濃度は不明です。両金属格子内核融合炉でそれぞれ最適値を求める必要があると思われます。

Pd代替え金属の探索

Pdは高価な金属なので、実用炉の金属発熱体としては不向きです。そこで代替え金属を探す必要があります。

Liイオン照射は高価なので、コスト面では電解でLiを格子間原子として入れるのが望まれます。6Liが再生産される「金属内重水素核融合炉」では電解が使える可能性があると思います。しかし、Liを大量に入れたい「金属内軽水素核融合炉」の発熱体としては、Liイオンドープの方法が優れるように思えます。

その他

金属格子内核融合の研究では、まず初めに従来の核力の概念を一新する必要があります。長距離核力の存在は、従来の湯川ポテンシャルのような短距離核力を否定するものではありませんが、理論の統合を図るには核力の原因の考え方を根本から転換する必要があると思われます。つまり、これまでの量子物理学のパラダイムシフトが必要になる可能性があります。


■ 引用文献

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[4] Shobu, K. New thermodynamic equilibrium calculation software, CALPHAD, 33 (2009), pp 279-287.
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